余禄

平成27年2月22日
毎日新聞より

 日本人の識字率が飛躍的に高まったのは江戸時代だ。戦乱のない安定した社会が続き、庶民の子供たちも寺子屋に通って学んだ。 そこで教育の中心になったのが、「読み書きそろばん」である
「読み書き」は今でも基本だが、そろばんを見かける機会は随分乏しくなった。電卓や計算機能付き携帯電話の普及に押された時代の流れだ。 ところが最近、そろばん人気がじわじわ復活しつつあるという
日本珠算連盟によると、珠算能力検定試験の受験者は1980年度の約204万人をピークに減少し、2005年度には約18万人まで落ち込んだ。 しかし、その後は増加に転じてここ数年は20万人以上で推移している
計算力だけでなく集中力や記憶力も高める効果があると見直され、特に暗算部門の受験者が増えているという。 パソコン時代を反映し、コンピューターの画面に数秒ごとに出る数字を計算していくフラッシュ暗算など新しい方式も生まれている
500年以上前に中国から伝わったそろばんは日本式に改良が重ねられ、計算しやすいように玉の数を減らして玉はひし形になった。玉や竹芯の加工は職人技の集積だ。 播州(兵庫県)と雲州(島根県)のそろばんは伝統的工芸品に指定されている。近年はポケットに収まる小型やカラフルなものなど多様化して海外でも人気だ
そろばんは脳の老化を防ぎ、認知症の予防にもつながるといわれる。 パソコンやスマホなど電子機器があふれる昨今だが、子供の頃に使ったそろばんを取り出してパチパチはじいてみると、 電子音に追われる日常とは違った風景が心の中に浮かんでくるかもしれない。